吐き気は舌の根元を刺激されただけでも起こりますし、嘔吐は身体に害のあるものを速やかに体外へ出すための重要な機能です。ただし、嘔吐がひどいと脱水症状を起こして命に危険が及ぶこともありますし、吐き気や嘔吐が重大な疾患の症状として起こっていることもあります。吐き気や嘔吐には、すぐにでも緊急受診すべきもの、できるだけ早く消化器内科の受診が必要なものがあります。健康を守るためにも、適切な対応ができるようにしましょう。

緊急性が高い危険な吐き気・嘔吐

• 水分が十分にとれない
• 吐瀉物に血液が混じっている
• 強い腹痛がある
• ふらつき、麻痺、めまいなどをともなう

早期受診が必要な吐き気・嘔吐

• 発熱や下痢をともなう
• 長時間吐き気や嘔吐が続く
• いったんよくなってもぶり返す吐き気・嘔吐

しばらく様子をみても大丈夫な吐き気・嘔吐

• 安静にしているとすぐ改善し、ぶり返さない
• 食べ過ぎなど明らかな原因がわかっている一時的な吐き気・嘔吐

明らかな原因がわかっている場合も、何度か繰り返す場合には念のため消化器内科を受診するようにしてください。また、市販薬などで解消できる場合も、重大な疾患が隠れている場合がありますので、1度消化器内科で原因疾患がないか確かめましょう。

暴飲暴食、妊娠、乗り物酔いなどで生じる場合もよくありますが、疾患が原因で起こっている可能性もあります。吐き気や嘔吐は腸閉塞など命の危険もある重大な消化器疾患で起こることもありますし、心筋梗塞や脳卒中などの消化器以外の深刻な疾患によって生じることもあります。おかしいと思ったら速やかに医療機関を受診してください。

嘔吐は感染症によって起こることがありますし、感染力がかなり高い疾患がたくさんあります。吐瀉物の始末をする際には、マスクと手袋を必ずつけて、処理したものをビニール袋に入れて密閉してください。始末の最後には、漂白剤などでしっかり消毒しましょう。なお、処置した際の衣類は別に洗濯し、その後は手指をしっかり洗って消毒してください。

急性の吐き気・嘔吐がある場合に疑われる疾患

急性胃腸炎

ウイルスや細菌などの病原体によって起こる急性の胃腸炎です。ノロウイルスや病原性大腸菌など重篤な症状を起こすものも多く、感染しやすいため早期の治療や適切な対応が重要です。また、海外から帰国後に発症した場合は、渡航先などの情報を医師にしっかり伝えてください。なお、幼児や高齢者は脱水を起こしやすいため、水分をしっかりとれているかどうかをこまめに確認する必要があります。

腸閉塞

腸管が閉塞している状態で、緊急受診が必要です。大腸がんなどによって生じることもあります。

急性虫垂炎

いわゆる盲腸です。急性虫垂炎の早期には、軽い吐き気を生じ、徐々に腹痛が右下腹部に移っていくことがよくあります。軽度でしたら抗菌薬などによる治療が有効なこともありますが、進行してしまうと開腹手術が必要になります。

急性胆のう炎・胆石

胆のう疾患では、右上腹部の痛みや発熱といった症状を起こしやすいのですが、吐き気や嘔吐を起こすこともあります。

狭心症・脳卒中・緑内障発作など

狭心症・心筋梗塞といった心疾患、脳梗塞・脳出血、脳炎、髄膜炎などの脳疾患、そして緑内障発作でも強い吐き気や嘔吐の症状を起こすことがあります。心疾患では強い胸痛、脳疾患では頭痛、麻痺、ろれつが回らないなどをともなうこともあります。緑内障発作は脳疾患と同じような症状を起こし、放置していると失明に至る可能性があります。いずれも一刻も早い医療機関の受診が必要です。

慢性的な吐き気・嘔吐がある場合に疑われる疾患

胃がん

胃がんは早期の自覚症状に乏しく、進行してから症状を起こすことがよくあります。吐き気や嘔吐などが慢性的に続く場合には、できるだけ早く受診してください。

胃・十二指腸潰瘍

胃や十二指腸の粘膜が深く傷付いて締まって潰瘍になっている状態です。吐き気や嘔吐以外では、胃やみぞおちの痛みなどを起こします。進行すると潰瘍から出血して吐血、タール便、貧血症状などを起こすこともあります。穿孔などを起こすと危険ですから、できるだけ早く受診してください。

うつ病

気分の落ち込みや気力の低下、倦怠感、睡眠障害などの他に、吐き気・嘔吐といった消化器症状を起こすこともよくあります。

問診で症状の内容、起こりはじめた時期や症状の変化、症状を起こすきっかけ、食べたもの、海外渡航歴、既往症や服用している薬などについてもうかがいます。血液検査、超音波検査(腹部エコー)、胃内視鏡検査などから必要な検査を行って、総合的に判断しています。
なお、症状から脳神経外科、循環器科、眼科の緊急受診が必要と判断された場合には、速やかに連携している高度医療機関をご紹介してスムーズに検査・治療を受けていただけるようにしています。

吐き気や嘔吐がある場合、深刻な疾患の可能性もありますので早めに受診してください。特に、十分な水分補給ができない場合には、脱水を避けるためにも速やかな受診が必要です。また、緊急性が少ない場合も、重大な病気を発見して適切な治療を行うために、早めに消化器内科を受診してください。